2019年7月19日金曜日

昔は極秘、今は?




4年前までという上記のtweetは誤りです。

この勘違いの原因には心当たりがあるのでここで説明しておきましょう。

ごく最近ですが2019年7月11日放送のTBS “ ひるおび ” で、ゲストの元大阪府警警部で元衆議院議員の中島正純氏が “ 昔はこれ警察の極秘のNヒットシステムだったんですよ ” と述べていたのと、これまた最近の月刊ラジオライフ誌2019年6月号の記事の一部に --H27年6月16日の第189回国会衆議院法務委員会(第24号)政府側参考人として警察庁刑事局長が「平成27年5月末日現在、警察庁が設置している自動車ナンバー自動読取装置いわゆるNシステムの設置台数は1511式でありまして、これと同じ仕様の装置を都道府県が179式設置しております。」と答弁しており-- と書いてあるのを読んで早とちりしたからではないでしょうか。

まず年度毎の設置数や予算額については以前から国会議員(ある政党)が要求すれば出していましたから、Nシステムの存在そのものでなく路上端末の設置場所や読取機の仕様が極秘だったのです。ただ他の政党のある議員がNシステムの資料を出せと言ったら「では議員は警察活動に理解のない方とみなされますが宜しいのですね?」というようなことを言われたと書かれている記事(小谷洋之氏のもの)を読んだこともあります。が、国会から呼び出されれば警察庁から説明員が出向き答弁していました。例えば以下のようなものです。

119○岡田説明員 Nシステムについてお尋ねでございますが、私ども自動車ナンバー自動読み取りシステムと呼んでおりますが、このシステムのことかと存じます。
このシステムにつきましては、御案内のとおり、走行中の自動車のナンバーを自動的に読み取って、手配車両ナンバーと照合する、そういう機能を持ったものでございますけれども、その役割としては、御指摘のように、盗難車両の発見でありますとか、それに基づいて自動車盗事件を検挙する、あるいは自動車を使用した重要事件における犯人の検挙、そういった機能を持っているわけでございます。その検挙状況の推移ということでございますけれども、この整備が始まりましたのが昭和六十一年からでございます。データをとり出しましたのは平成五年からでございますが、平成五年にこのシステムで自動車盗を検挙いたしましたのが約七百六十件でございます。そして、平成九年には、自動車盗の検挙数は、都道府県の報告を集計いたしますと、千三百八十件となってございます。
そのほか、数的なデータにはなかなかなりにくいのでございますけれども、自動車盗以外の犯罪の重要事件で、従来の捜査手法ではなかなか解決が困難でありましたような事件につきましても、犯人の検挙や犯行の裏づけにも大きな成果を上げてございます。それから、設置状況の推移ということがございましたが、先ほど申し上げましたように、平成五年当初で約百カ所ぐらいの予算で措置をされておりました。それが平成九年度末では、幹線道路を中心といたしまして、全国に四百カ所余りが整備されているという状況でございます。

上記の答弁をした1998年5月22日の衆議院建設委員会に出向いた説明員は当時の警察庁刑事局刑事企画課長で岡田薫という官僚でした。
この警察庁刑事局刑事企画課という部署がNシステムの運用を直接担当していて、以前Winnyで警視庁から流出した検索申請書(書式)にはここの課長の決済印を押す欄がありました。

しかしマスコミ等がNシステムについて扱うと公安が出てくる有様でした。
テレビ朝日「ザ・スクープ」で一度Nシステム特集が放送されたことがあるのですが、その制作に関与したクルーを放送数週間後に警視庁公安部が尾行し、それに気づいたクルーがその様子をビデオカメラに収め番組で放送しようとしたが、テレビ朝日の警視庁記者クラブのキャップが警察と手打ちしてしまいお蔵入りになったという事件まで起きました。これでマスコミの連中は縮み上がったのか、それ以降Nシステムの話題はタブーとして確立した感がありました。

以下のリンク先は必見!
http://www.njg.co.jp/post-14455/
https://www.njg.co.jp/post-14469/
http://incidents.cocolog-nifty.com/pdf/torigoe.pdf

警察が初めてマスコミ向けに公式に認めたのは、2006年6月に愛媛県警警部の私有PCからWinnyのファイル交換ネットワークにデータが流出し、Nシステムで得たデータ(のべ10万台程度)等が含まれていた際の会見においてではないかと思います。https://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/06/19/12379.html

この流出では読み取ったナンバーのデータだけでなく、運用に関する書類も流出しており、中でも興味深かったのは、窃盗の前歴者をNシステムに登録する登録申請書があり、その中に「Nヒットしても尾行したり職質したりしないように」という趣旨の注意書きがあったことです。つまり前歴者をNシステムを使って泳がせて監視するための登録だったわけです。Nシステムの使途の実に生々しい実態の分かる文書であり一線級の資料でした。

その後2007年6月中旬までに今度はNシステム端末の設置場所一覧が警視庁北沢署勤務のPMの私有PCから再びWinnyのネットワークに流出してしまい、壮大に自爆してしまった為、一応ここからは口が裂けても極秘などとは言えなくなってしまいました。

以上が “ 昔は極秘だった ” が、現在ではそうでもないという話の説明になろうかと思います。遅くともNシステムの存在は2006年6月には公然のものとなったということです。

余談ですが、なぜ警察官は私有PCに仕事のデータを入れていたのかということについて少々触れておきます。昔は自腹でPCを購入しそれで仕事の書類を作成していたのです。当方の知るケースですと1998年ごろ某県警の刑事や機動隊員も自腹でノートPCを買い、一太郎をインストールして仕事の書類を作っていました。これがWinnyによるデータ流出の根本原因と思われます。当時コンビニでも売られていた雑誌「ネットランナー」辺りでも盛んにファイル交換を勧めており、それらの情報を真に受けたリテラシーに疎いPMがWinnyでファイル交換をしていて暴露Virusに感染し、警察のデータも流出させてしまったのです。また先輩・上司の刑事が後輩に仕事のやり方を教えるために自分が仕事で作成したファイルをコピーして与えていたことで、先輩・上司が作成したファイルまで流出させてしまったことが惨禍を拡大させたのです。

仕事で使うPCを自腹で調達とはなんとも気の毒なことでした。今時パソコンを支給しない職場があったらブラック認定かつセキュリティ上の問題を指摘されると思いますけれども。当時は一般にそんなものだったとも言えず、警察が特にブラック職場だったのだろうと思われます。

更新履歴:2020-10-07,09 日付に誤りがあり訂正しました

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